温泉修験道「九州の細道」編 その一

(文中の画像は上のアルバムに掲載されています。)

  (1)別府 

別府は、街にたとえれば東京のようなところ

東京というまとまりある街があるわけではなく、新宿、渋谷、池袋、六本木…と様々な街が雑踏でつながり広がっているように、鉄輪温泉、明礬温泉、観音寺温泉、堀田温泉、別府温泉…とさまざまな温泉街が数多くの「地獄」めぐりと交錯して広がっています。

駅の東側の海岸沿いは、廃業したホテルや旅館が目立つ一方で、駅の西側は、ホテルや旅館だけでなく、別府湾をみおろす丘陵地帯に温泉付別荘などが無秩序に開発され、行き交う人も実に様々です。

中高年の団体客、家族連れ、学生風情のカップル、外車を走らすオジサンと若い子の組み合わせ等、温泉街を訪れる人たちを眺めていると、まるで東京の街角にいるような気分になります。

それでも、同性同士のグループをほとんど目にしなかったことは、ある意味で、観光地としての魅力がいささか薄らいでいる表れのようにも思えてくるのです。

ガイドブックに出ている食事処のほとんどは値段も高い割にあまりおいしいとはいえません。

「関アジ・関サバ」というブランドとなって異常に高額化した魚たちも、フツウに美味しい「アジ・サバ」以上のものではありません。

このようにして、温泉修験道としては修行の場にふさわしいとはとても思えず、長らく敬遠してきたところです。

しかし、別府といえば温泉の老舗。ここを避けたまま開祖修験者をいうは、やはり名折れです。そこでついに、仕事の旅程でたまたま立ち寄らざるを得なかった事情から、彼の地での修行に挑むことになりました。

ここでは、小生が訪れた中でとくにお奨めの修行湯をご紹介しましょう。

なお、ご紹介するところはすべて「源泉掛け流し」で、湯温についての表記は12月末という冬季のものとお考えください。


@ 明礬温泉「明礬湯の里」

      TEL:0977-66-0301 営業時間 10:00〜21:00 ¥600

      単純酸性硫黄泉 露天のみ

亀の井交通バス「地蔵湯前」下車(別府駅から鉄輪バスセンターでバスを乗り継ぐ必要あり、この乗り継ぎがよくて所要時間60分) 登り坂徒歩10分

明礬温泉というと、泥湯の「別府保養ランド」が有名ですが、温泉修験道としてはこの「湯の里」がお奨めです。

白濁した単純酸性硫黄泉で、肌を柔らかくまろやかに包み、それでいて泥湯のように肌に絡まずにさっぱりしています。

湯温は若干温めですが、熱くもなく温くもなくとてもいい湯加減です。

別府は、全体に源泉の温度が高く、熱目の湯が多い中では、とても有難く感じます。泉質と湯に入った肌触りは、秋田県の「蒸けの湯」に酷似していました。

ここは別府湾を見渡せる丘陵地帯に露天があるため、見晴らしもなかなかです。

でも残念なことに、大分高速道が視界の真ん中で見晴らしを邪魔しています。日本橋の首都高速を移動させるというなら、ここの高速道も移動させるべきかと思いますがねぇ。

A 鉄輪温泉「鬼石の湯」 

       TEL:0977-27-6656 営業時間10:00〜21:00 ¥500

       ナトリウム−塩化物泉 内湯1 露天2

       亀の井交通バス「海地獄前」下車(別府駅から30分) 徒歩5分

鉄輪は別府の中でも、もっとも温泉情緒を残しているとの噂でしたが、その噂に観光客が群がるために、小生が立ち寄ったクリスマス・イヴは「原宿」と「刺抜き地蔵」を足して二で割ったような塩梅の風情でした。

そのような温泉街の「鬼石坊主地獄」の傍らにひっそりと佇む日帰り温泉施設です。たまたまかも知れませんが、クリスマス・イヴというのに入浴客は小生を含めて3人でした。

お湯は無色透明でさらりとしていますが、体を温める効果は抜群です。湯温はやや熱めといったところ。

建物は清楚な木造で、木造の内湯と露天の他に、岩風呂の露天がもう一つついています。木造の露天は少し高いところにつくってあり、この露天からの見晴らしも気持ちのいいところでした。

このお湯を出たところに「地獄めぐり」の茶店があり、そこの「タコ蒸し飯」は結構いただけますよ。(たしか¥600〜700だったような)

B 観音寺温泉「いちのいで会館」 

      TEL:0977-21-4728 営業時間11:00〜17:00

      ¥1.050(入浴込みの食事代金) ナトリウム−塩化物泉 露天のみ

別府駅から鶴見岳に向かって徒歩90分。又は亀の井交通バス「ビーコンプラザ前」から徒歩30分(どちらも、急な上り坂でちょっと健脚コースになります)

ここは日帰り入浴施設ではありません。地域の食堂兼仕出し屋さんが、食事客のために露天入浴をさせてくれるところです。

従って、露天風呂に夜間照明の設備はなく、夕方の5時までしか入浴できません。

別府には、小さなラーメン屋やパチンコ屋などにも、客がついでに入浴できる内湯をもつところがたくさんあり、地域の人たちが「普段着の温泉」として湯守してきたものの一つです。

温泉修験道一押しのお湯です。

急な登り坂を歩いて行き止まりのところにある、焦げ茶色の木造二階建てが調理場と食堂で、その裏側の小高いところに露天が二つあって、男女日替わり制だそうです。

この建物は、小生のような「よそ者」にはどこが入口なのかさっぱり分かりません。

一階を見ると調理場のようだし、二階に向かう階段は非常口につながる非常階段のようで… さんざん迷った挙句、「非常口」のようなところから入って正解でした。

一つしかないメニューの「団子汁定食」を注文して、まず露天に入りました。客は小生を含め二人。

湯は乳青色でさっぱりしており、かすかな硫化水素臭が湯煙の中に混じっています。 当日、小生が入った露天(画像T)は、「蔵人」の全床面積ほどの広さがある湯船で、画像左端に見える小屋は「蒸し風呂棟」(温泉スチームサウナ)です。

ここは木立に囲まれ、露天そばでは小さな滝が清流を落とす、まことに閑静な佇まい。

眼前では、電線や電柱を含めて視界をさえぎるものが一切なく、別府湾を一望できます。(画像U)

もう一つの露天は、「蔵人」の二倍ほどの広さで木造の湯船ですが、当日は女子専用なので見ることはできませんでした。

湯温はやや温めで、ゆったりと長湯に浸り、全身の血流を蘇らせ、頭の中をα波で満たすことができます。まさに感動的修行です。

お湯から上がり、戴いた団子汁定食はこれまたなかなかの一品でした。ホウトウとスイトンを足して二で割ったような団子に根菜類のたっぷり入った白味噌仕立ての団子汁に、なます、出し巻き卵、鮎の甘露煮、とり天(鳥のてんぷらで大分名物)、小サラダ、ひじきと大豆の煮物、三角おむすび、漬物等がついています。

なお、別府で湯めぐりされる方には亀の井交通で発行している1日フリー乗車券(¥900)がかなりお得です。が、このフリー乗車券はあまり目立った宣伝をしていないため、はじめての観光客は、まず気づくことはないでしょう。

別府駅の別府観光協会か、亀の井交通バスセンター(別府駅にはありませんからご注意のほどを)で入手できます。

  (2)筌の口温泉「新清館」(画像V−左が新清館、右が第一共同浴場)

JR久大本線(ゆふ高原線)豊後中村駅からバス20分「筌の口」下車 徒歩5分(通常ならこのルートですが、2005年7月の豪雨災害で豊後中村から九酔渓に向かう道路が損壊し、復旧の目途がたっていません。そのため、大きく迂回するルートをバスが走るため、豊後中村駅から40分はかかるでしょう)

平日なら1泊2食¥8.800(連泊の場合、二日目に豊後牛のすき焼きを出しくれます。)

立ち寄り湯¥500 炭酸水素塩泉

大分の九重連山のそばに湧き出るお湯です。

従来から、仕事の合間でも必ず立ち寄ってきた温泉修験道の聖地の一つです。

ここには二つの旅館と二つの共同浴場があります。

川端康成が原稿執筆のために長逗留したことで有名な旅館「小野屋」はここにありますが、今でも建物はあるものの、事実上、廃業しているそうです。

もう一つの旅館が「新清館」で、素朴で清楚な木造屋に、内風呂と広大な(蔵人の床面積の3倍はあると思います)岩露天(画像W)が男女各1であります。

なお、共同浴場(「第一共同浴場」は蔵人の3倍位の広さを持つ湯船です)は確か¥200で入れたと思います。

この辺りには「九重九湯」があり、その両側に、東に由布院が、西に黒川温泉が位置します。

この由布院と黒川はあまりにも温泉地としてブレークしたために、温泉街はまさに別府と同じような観光客の風情で、今では修行に不向きなところとなりました。

それに、黒川温泉あたりが始めた旅館従業員の「作務衣姿」が「九重九湯」に伝播し、筋湯だろうが湯坪だろうが、この地域のどこの温泉旅館に行っても、主・女将から全従業員までが「作務衣姿」をしているという奇怪な現象がはびこっています。

料理にしても、この辺りの旅館の中には、大分名物の「地鶏」と称してタイ産の鳥を出し、「豊後牛」といいつつオージービーフを出すところさえ散見できるのです。

大分の「一村一品」なるものの底の浅さが窺えます。由布院辺りの土産に出ている籐製品など、すべてベトナム産になっているとか。

ところが、この新清館は、主・若女将・老女将が普段着で切り盛りしており、とくに老若二人の女将さんは気さくで親切な心遣いをして下さいます。

ここが料理に出す豊後牛は小生の舌から「豊後牛のDNA証明書」が出せそうなくらい、ほんとに美味しいです。土産品は乾燥シイタケ以外、何も置いていません。

さて、肝心のお湯ですが、露天は翡翠色と黄土色の中間あたりの色合いで、なかなか温泉成分の濃厚なお湯です。でも、湯上りに肌にまとわりつくような感じはまったくありません。湯上りの肌は、さっぱりしています。

内湯は完全な翡翠色の湯(画像X)で、湯船の外周には温泉成分が結晶しています(画像Y)。

お湯の湧出量はまことに豊富で、ざぶざぶと掛け流されています。

露天は森の中にあり、湯温は露天の位置によって自分好みのところを選択できるため、静けさの中で存分に瞑想することができます。

なお、新清館周辺は野鳥に溢れていて、小生はヤマセミを40分ほど観察することができました。画像Zは、九州を代表する色男のK氏が小生の導きによって煩悩を払いたいとひれふし、バードウォッチングの指導を受けているところです。

  (3)人吉

JR肥薩線(えびの高原線)人吉駅下車 周辺に約30〜40箇所の入浴施設あり。

 立ち寄り湯はすべて¥300

・ お奨めの宿は、国民宿舎「くまがわ荘」1泊2食¥6.765(休祭日+¥2.000)

・ お奨めの共同浴場は「華まき温泉」(西人吉駅下車 徒歩30分)

  弱アルカリ炭酸泉

鹿児島県出水市にあるツルの生息地([)に行った帰り、人吉で修行しました。

ここはあまり観光化しておらず、人吉市の街中で地域の暮らしとともにある温泉風情が魅力的なところです。

球磨川の鮎釣りシーズンには、球磨川名物の「尺鮎」という巨大な鮎を目指して釣客が大勢来るようですが、それ以外のシーズンは閑静な街の風情です。

間違っても、外車を走らすオジサンと若い子の組み合わせなどには出くわしません。穏やかな心のままに修行できるところです。

まず、お奨めの宿の国民宿舎くまがわ荘。

ここは駅中心部から離れた、閑静な球磨川沿いに立地し、朝の眺めはすばらしい(画像\)。

この周辺は、最近になって日本に定住し始めた留鳥の「ヒメアマツバメ」が生息しています。(画像]−高速で飛んでいるところなのでピントが甘いことは愛嬌にして下さい。)

もともと暖かい東南アジアにいた鳥ですから、やはり地球温暖化の証左なのでしょうねぇ、事情を知らずにこの鳥に出くわすと「冬にどうしてツバメがいるんだ!!」と叫んでしまいます。

この国民宿舎の建物は古い鉄筋ですが、食事はなかなかすばらしい。

焼きたての鮎塩焼、鹿児島黒豚角煮、霧島のウナギを必ずセットで出してきます。素材だけでなく味付けも美味で、東京周辺の金銭感覚ではほとんどミラクルな食事といっていいでしょう。

ここのお湯は、「蔵人」の2.5倍程度の広さの内湯だけですが、豊富に掛け流されており、湧出口の温泉は飲用できます。ただし、清掃と管理のために、入浴時間は23時まででいったん閉まり、翌朝6時から再開されます。

次に、お奨めの共同浴場華まき温泉。

人吉中心部からやや離れたところにある、里山の中に佇む入浴施設です。

ここに辿り着く道中ある、人吉最古の石橋は風情ゆたかな光景をかもし出しています(画像XI−石橋ドーム下のやや左に見える遠景の建物が華まき温泉です)。

ここのお湯は、炭酸の濃度が高いため、長湯のラムネ温泉のように、湯船につかると全身にびっしりと気泡がついてくるすばらしいお湯です。

サラリ・ツルリの美肌効果抜群の湯ですから、蔵人のバイト嬢方々にもお奨めできます。小生が立ち寄ったときは客数が少なく、漬物とお茶を主の方がふるまって下さいました。この素朴なサービスもいいですね。

修行の最後は、このように落ち着きのあるさっぱりとした湯がふさわしいと思います。